書評、アビ・ヨレシュ著『イノベーションの国イスラエル』

博士77
 GAFAMばかりではない、米欧の300を超える先端企業がイスラエルに開発ラボを設置し、世界中の大学がイスラエルの研究機関と提携している。工学、生物学、医学、薬学からカウンターハッカー技術まで、何故かくも世界のハイテク企業や大学がイスラエルと接触したがるのか?

 副題に「世界を変えた15の物語」とあるようにイスラエルの発明家、起業家が、現代世界を牽引するイノベーションの起源となった。

 デジタル時代のファイアウォールも、迎撃率90%で空を守るアイアンドームも、イスラエルのイノベーションが生み出した。農業、医療、軍事など多岐にわたるジャンルの事例を紹介しつつ、ゼロから世界を画期する発明、改良をなしたユダヤ人の発想力の秘密に迫るのが本書だ。

 成功した理由として著者は三つをあげる。
①ソ連崩壊で、優れたユダヤ人が大量にイスラエルに帰還したこと。
➁軍でハイテク兵器、技術に携わっていた人たちが退役後、民間のベンチャー企業を起業したこと。
③政府が資金援助などで起業家、発明家の卵を育成するシステムをつくり奨励してきたこと。

 どれも、日本政府、企業、大学が学ぶべきポイントそのもの。日本が特許で米国に負け、明日にも中国に追い抜かれそうなのは、上記の➁がなく③の予算が少な過ぎることである。ジェット戦闘機F35の国産化が決まったが、防衛産業の裾野は今では荒れ果てている。

 自衛隊には「兵器開発部門」がなく、民間技術の転用で補完しているのが、現実である。ましてや、防衛大学を卒業しても任官拒否組が夥しい。米国でも日本でもそうだが「どの大学を出たか?」が問題になる。ところが、イスラエルでは「どの部隊に所属したかで(採用が)決まる。米NSA(国家安全保障局)に相当する8200部隊などに所属していれば、就職は有利になる」という。

 14歳で大学へ進んだ少年は、十代で二つの会社の仕事を引き受け「18歳の時に兵役に就き、イスラエル軍でもエリート組織で知られる8200部隊に配属された。通信傍受による諜報活動や暗号の解読」の仕事だったが、この経験から、彼はコンピュータシステムの安全を提供する製品を作ることを思いつき、除隊後、開発に専念。そして、完成するやいきなりアメリカへ売り込みに出掛けた。今では世界の10万の企業が採用している。ファイアウォールの要のところを抑えていたからだ。

 また、別の人物は子どもの時からエンジニア志望で工学を学び、イスラエルの代表的な航空機メーカーで働いていたが、産業ロボットに目をつけ、AIを利用すれば医療手術にも応用できると閃めいた。今や脊髄手術までロボットがこなせる段階まで来た。こうした逸話がコンパクトに収まった本書は、発想のヒントにも繋がり読んでいて楽しい。